中川 武(JSA団長/早稲田大学教授)

1980年代末よりカンボジア和平に主導的な役割を果たした日本政府は、その後の社会復興のために継続的な国際協力が不可欠と考え、その象徴的事業として、日仏の協力のもとに、国際協調の枠組みによるアンコール遺跡救済に乗り出しました。その目的の主要な部分を遂行するのがJSAです。目的ははっきりしており、その意義も重要であることはすぐ理解されますが、では、そのためにどのような保存修復を行えばよいのか、となると話はまた別 になります。

カンボジアの人たちが将来自らの手で修復するために、私たちに出来る協力とは何か。それがどのように日カ友好、国際協調、そしてカンボジア社会の復興に結びつくのか。これらの問題を私 たちなりに模索してきた結果、以下のように考えています。

クメールの祖先は、水のエコロジカルな循環や土地の固有な風 土と新しく伝来した技術との調和を尊重する考え方や感覚に優れており、それがアンコール遺跡の配置や作り方や形態に表現されています。したがって、このクメールに独自な思想を保存し後世に継承するために、この遺跡を修復するのでなければなりません。そしてカンボジアから世界に向けて何を発信するのか、問い始めた時、カンボジア人自らの自立と復興が緒につくばかりでなく、私たち日本人にとっても自らの課題として、世界に向き合うことを意味するのです。

私たちがカンボジアの人たちに知識や技術を伝え、現場で共に汗を流し、等身大のつき合いの中から見い出すことができるのは、単なる一方的な協力関係では決してありません。それは、過去の復興という共感に裏打ちされて、共に未来を信じようとする意志なのです。

なかがわたけし
建築史家・早稲田大学教授・工学博士 1944年富山県生まれ。
1967年早稲田大学理工学部建築学科卒業。72年同大学院博士課程修了。
71年より早稲田大学理工学部助手、専任講師、助教授を経て、84年同大学教授。

1998年にカンボジア王国シアヌーク国王より「サハメトレイ王国勲章」受章
2000年にベトナム・フエ省および文化芸術省より「民族文化遺産保存事業功労勲章」を受章
2002年にカンボジアでの「アンコール・トム中央寺院バイヨンの北経蔵修復等を通じての国際貢献」により日本建築学会賞を受賞
2005年にカンボジア王国シハモニ国王より「モンニサラポン勲章」受章

<主な活動>
1972年-現在、日本建築、木割りの研究
1982-91年、スリランカで古代仏教建築の実測調査と設計手法の研究
1989-92年、東北タイ、クメール建築の実測調査
1977年-現在、早稲田大学エジプト学研究所、吉村作治教授と共にエジプトのルクソール、アブ・シール、ギザ、ダハシュール等での研究調査活動
1991年-現在、ベトナム、フエにおける午門、カンチャンパレス等の保存修復活動
1992年より日本国政府の依頼により、アンコール遺跡予備調査を開始

日本国政府アンコール遺跡救済チーム団長(1994年〜)
ヴィエトナム・フエ・ユネスコ会議国際専門委員(1995年〜)
文化審議会文化財分科会第二専門調査会専門委員(2000年〜)
日本建築史学会会長(2001〜2003年)

<著書>
『日本の家』(2002年・TOTO出版)、『建築様式の歴史と表現』(95年・彰国社)、『世界宗教建築辞典』(2001年・東京堂出版)、『保存工学の課題と方向〜アジアへの文化遺産保存協力〜』(2001年・早稲田大学建築史研究室)、『数寄屋の森』(95年・丸善)、『日本建築みどころ辞典』(90年・東京堂出版)など