アンコール遺跡は、砂岩、ラテライト、煉瓦を主材料として建造されています。岩石学班は、アンコール遺跡を構成するそれらの石材を対象に、その供給地に関する調査、石材の劣化要因の解明と石材劣化度の非破壊評価に関する調査を行っています。

アンコール遺跡で使用されている砂岩は分析結果より灰色〜黄褐色砂岩、赤色砂岩、緑褐色硬砂岩の3種類に分類されることが判明しましたが、このうち、灰色〜黄褐色砂岩の石切場の幾つかはアンコール遺跡の北東30〜40kmに位置するクレン山の南東山麓に点在することが確認されました。また、砂岩の磁力を示す帯磁率の測定により、アンコール・ワット期からバイヨン期にかけて建造された遺構の建造編年ならびに増築過程を明らかにすることに成功しました。

ラテライトについても孔隙サイズと帯磁率に基づく遺跡のグループ化が、砒素、アンチモン、ストロンチウム、バナジウムの含有量といった化学分析による結果によって裏付けられました。煉瓦は、特に9世紀から10世紀にかけて建造された建物に使用されていますが、そのサイズは時代とともに大きくなる傾向を示しています。煉瓦の場合には、砂岩やラテライトと異なり、その帯磁率や化学組成に基づいて遺跡をグループ化することはできませんでした。

砂岩の劣化調査では、コウモリの排泄物が大きな影響を及ぼしていることが伺われています。特に石材劣化において重要な役割を果たす水の動きを把握するために、石材内部の水分の分布とその季節変化・日変化を2種類の水分計(誘電率タイプと赤外線タイプ)を用いた調査を行っています。劣化評価には、超音波伝播速度測定装置、赤外線カメラ、反発強度計を用いて劣化・剥離部の非破壊法による分布把握が試みられています。


※1【帯磁率(X)】与えた磁場の強さ(H)に対する誘導磁化の強さ(M)の比(x=M/H)。岩石の場合、単純に言えば、岩石の磁石に対する引力の大きさ。