1-1. 保存の体制

 アンコールにおける保存事業は、国外の各機関がそれぞれの遺跡を持ち場として担当するという形式で行われている。その多くは高級文化委員会(Superior Council for National Culture)直属の特別政府機関であるアプサラ機構(APSARA: Authority for the Protection of the Site and the Management of Angkor Region)と連携を保ちながら、保存修復事業を進めている。各機関の遺跡の保存修復事業についての枠組みはカンボジア和平の実現に向けて、その復興支援の一環として1993年に東京で開催された関係国政府間会議において定められたものである。この際にアンコール地域の保存と開発についての国際調整委員会(ICC: International Coordinating Committee for the Safeguarding and Development of the Historic Site of Angkor)の設置が決定され、さらに1993年12月より年1回の本会議と数回の技術小委員会が開始された。国際調整委員会は日本とフランスの両国が議長国となり、新規にアンコール地域での事業を行う機関は、カンボジア政府の合意を得た上でICCにプロジェクトのプロポーザルを提出し、協議を行った上で同意を得る必要がある。また、事業を行っている機関はICCに対して経過報告の義務がある。この他、修復方法や理念の国際的な標準化などを目的に、1996年よりシェムリアップにおいて、日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JSA: Japanese Government Team for Safeguarding Angkor)の主催によるバイヨン・シンポジウムが毎年開催されている。


 現在、アンコールの遺跡修復事業に参加している海外組織は、国としてはフランス(EFFO: Ècole française d'Extrême-Orient)、ドイツ(GACP: German Apsara Conservation Project)、中国(CSA: Chinese Government Team for Safeguarding Angkor)、イタリア(I.Ge.S: Ingegneria Geotechnica e Strutturale)、インド(ASI: Archaeological Survey of India)、スイス(BSCP: Banteay Srei Conservation Project)、日本(JSA)の各国があり、また民間組織としては世界記念物基金(WMF: World Monuments Fund)、上智大学アンコール遺跡国際調査団、奈良文化財研究所、東京文化財研究所などが挙げられる。各修復隊は得意とする専門分野を活かしてそれぞれのサイトを担当し、調査研究、整備開発、メンテナンス、修復保存事業を進めている。


 カンボジア国内で文化行政を担当しているのは文化芸術省であるが、アンコール地域の遺跡の管理については特別に上述のアプサラ機構が担当している。この組織はシェムリアップ市街地およびアンコール遺跡地域における遺跡と自然環境そして生活環境の保全対策の立案と、同地域の開発を図るための指導を主な役割としている。アンコールの保全事業を将来的に担う各分野の専門家の育成に積極的で、各修復組織への出向による実地研修や、修復組織が持ち回りで指導する新入職員への研修プロジェクトを進めている。現在、アプサラには大卒の専門家が約130名、遺跡の清掃や監視のためのスタッフが1,000名以上配置されている。

 

1-2. 保存と開発に関する法制度 >>>