最終報告<<<

アンコール・ワットがクメールの伝統における正統の歴史的集大成とすれば、バイヨンは、文字通り異端のチャンピオンです。クメールの歴史のみならず、世界建築史上の真にユニークな存在であるといっても過言ではありません。膨大な数の巨大な尊顔や回廊の浮き彫り装飾等によって醸成されるエネルギーと多様性に溢れる様相は、まさに稀有な独創性の結実と言わなければなりません。しかるに、バイヨンは半崩壊状態のままある中央塔を始めとしてアンコール遺跡の中でも最も危機に瀕した遺跡の一つであり、しかも、技術的にも最も修復の困難な遺跡であります。
 なんとか、バイヨンをクメールのそして世界の未来へ受け継がせたい・・・、そこで、JSAはこの10年間、「バイヨン寺院全域の保存修復のためのマスタープラン」の策定へ向けた作業を行ってきました。現在も継続中であり、これはバイヨンでの今後の取り組みに対する基本方針の提案でもあります。以下はこの「バイヨン寺院全域の保存修復のためのマスタープラン」の基本的考え方を示します。(中川 武)

No.1
1996年より毎年続けてきた、これまでのバイヨン・シンポジウムにおける発表、討論、リコメンデーション(提言)の集積である。バイヨン・シンポジウムはJSA主催であるが、UNESCOおよびAPSARAの支援のもとに、カンボジア人専門家、国際的専門家、アンコールで働く全てのチームに呼びかけて、バイヨンを中心としながらも、アンコール遺跡全体の保存の観点から、調査・研究、修復技術、活用方法にわたって幅広く議論を続けてきたものである。JSAのバイヨンに対する保存と活用の基本方針は、バイヨン・シンポジウムの成果を中心に現在策定中のバイヨン憲章によって提示し、今後とも幅広い議論を行っていきたい。

No.2
バイヨンに関する調査研究と劣化原因の分析、バイヨンの現状把握と修復に対する技術的指針。

No.3
JSAの三つの保存修復工事のサイトにおける体験と成果が、バイヨン全体の修復技法の基礎として採用される。

No.4
この10年間のカンボジア人専門家および修復技能労働者の成長には目ざましいものがある。これを基本として、UNESCOの協力とAPSARAを中心とした国際協調体制の活用により、より持続性と広い展開が可能な修復体制を提案する。

No.5
生きた信仰の場であり、観光の中心の一つでもあるバイヨンの現状を維持しながら、安全な修復工事との調和を獲得する。

No.6
保存修復事業のみならず、今後の活用計画も含めて、アンコール遺跡全体と理念的にも技術的にも協調し、その関係を深化・ 拡大させることが、バイヨンの保存修復のもう一つの重要な課題である。

今後のバイヨンシンポジウムの展望と「バイヨン憲章」の作成へ向けた課題

「バイヨン寺院全域の保存修復のためのマスタープラン」(目次案)

最終報告<<<