PHASE 1(Nov. 1994 - Sep. 1999)
■バイヨン北経蔵
部分解体と再構築、基壇部版築土層のオリジナリティーを尊重した上での改良工法の工夫
バイヨン寺院の北経蔵は、アンコール遺跡の中でも危機に瀕した状態の一つで、壁体・屋根は、不同沈下の影響で全体的に崩壊変形し、解体・再構築が必要なことは明らかでした。一方、基壇は東西両端 著しく不同沈下・変形しているものの、中央部では比較的均等で微妙な沈下のみだったため、中央部は現状を残し、上部と両端部のみを解体する方法を採用しました。また、基壇内部の版築土層には、オリジナル部と同等の強度と透水性を確認出来た「たたき」を応用した方法を採用し、砂岩やラテライトに、従来通り構造材としての機能を持たせつつ外観の形成を実現しました。原構法を最大限尊重し、かつ部分解体修復法のもつ構造的弱点を補う手法を修復に適用することがJSAの命題とし、1999年9月に北経蔵の修復工事が完了しました。
PHASE 2(Sep. 1999 - Apr. 2005)
■アンコール・ワット北経蔵
既往修理の再修理・散乱砂岩材の修復と原位置復帰
アンコール・ワット全域は、既にモルタルやコンクリートを使用した補修を受けていますが、JSAは伝統的構法と散乱状態で放置されていたオリジナルな部材を可能な限り修復し、原位置復帰の上で保存するという方針に基づき、必要な新材砂岩を併用しつつ、本来の遺構の回復を目指しました。
■プラサート・スープラ
塔傾斜の主要因であった地盤基礎までを含めた全解体再構築技法による修復方法とラテライトブロック部材の修復と再利用の方法を開発した。
崩壊が顕著であったプラサート・スープラN1塔の修復は、塔全体の崩壊・劣化原因の調査・分析から開始し、アンコールでは初となる基壇基礎を含めた全解体・再構築を行いました。また、損傷したラテライトブロックは、原位置を保存した上での各種試験等を通じて、十分な強度と耐久性を付加する対処法をマニュアルとして確立してきました。
■ バイヨン寺院全体の包括的保存修復マスタープランの策定
PHASE 3(Dec. 2005 - Aug. 2011)
■バイヨン南経蔵
蓄積された修復技術の再評価と自主的運動
バイヨン南経蔵の修復工事では、解体・基壇内部調査・破損石材の修理・解体部材の仮組等の工程・新材の加工・再構築工事とこれまで蓄積されてきたJSAの技術をJASAの体制下においてカンボジア人専門家と現場作業員の自主的な判断において、再評価と運用をすることが可能になりました。
PHASE 4(Nov.2011 - Jun.2018)
■バイヨン東面景観整備
■中央塔の恒久的安定化
■浅浮き彫りの保存修復方法の策定
■これらの修復活動と次世代の人材育成
約20年にわたる修復工事の実績を踏まえ、修復等と併せ、総合的な景観整備を実施しています。これと並行して、これまでJSA/JASAが続けてきた「バイヨン中央塔の恒久的保存」「内回廊浅浮き彫りの保存」の方法を確立するための各種検討を重ねるとともに、バイヨン本尊仏プロジェクトの一環である本尊レプリカ作成作業を行いました。また第4フェーズにおける重要な課題の一つである、次世代のカンボジア人育成―カンボジア人による持続可能な保存修復活動―と各国の文化財保存活用の若手研究者の育成・交流に関しても、取り組んできました。
PHASE 5 (Nov.2018 - Mar.2022)
■バイヨン東面景観整備
■中央塔の恒久的安定化
■浮き彫りの保存修復方法の策定
■これらの修復活動と次世代の人材育成
PHASE 4からの継続事業として、バイヨン外回廊北東部の景観整備を行っています。また、「バイヨン中央塔の恒久的安定化」と「内回廊浅浮き彫りの保存」の修復工事へと進むために、施工実験等を進めつつ、アプサラ機構と協力してバイヨン全域の整備工事を行なっています。
PHASE 4およびPHASE 5に行っているバイヨン本尊プロジェクトおよび外回廊と東参道におけるナーガ欄干とライオン石彫像の修復工事の概要に関しては、技術協力の項をご参照ください。