JSA / JASA

Japanese Government Team for Safeguarding Angkor
JAPAN-APSARA Safeguarding Angkor

日本国政府アンコール遺跡救済チーム

JSAとJASAについて

概要

1980年代末よりカンボジア和平に主導的な役割を果たした日本政府は、その後の社会復興のために継続的な国際協力が不可欠と考え、その象徴的事業として、日仏の協力のもとに、国際協調の枠組みによるアンコール遺跡救済に乗り出しました。その目的の主要な部分を遂行するJSA(Japanese Government Team for Safeguarding Angkor、日本国政府アンコール遺跡救済チーム)が1994年に結成されました。

またJSAは、アンコール遺跡の保全修復作業を通じた現地技術者への技術移転・人材育成に努めており、将来的にはカンボジア国民自らの手による遺跡保存活動が実現されることを目指して支援を行っています。
自立促進のための活動の一つとして、カンボジア政府組織APSARA(Authority for the Protection of the Site and the Management of Angkor Region)とJSAの協力チームである、JASAに結成しました。

将来、カンボジアの人たちが自らの手で修復することを目指して、私たちがカンボジアの人たちに知識や技術を伝え、その中で、日カ友好、国際協調、そしてカンボジア社会の復興に結びつけるために、互いに協力し合いながら活動を行っています。

メンバーと組織図

1. JASA共同代表
中川武:JSA 団長・統括責任者、早稲田大学名誉教授
キム・ソティン:アプサラ機構副総裁

2. カンボジア人専門家
ノッ・ソビアック:JASA テクニカルスタッフ

3. JASA技術補佐
石塚充雅:JASA 技術補佐、建築史学
成井至:JASA 技術補佐、建築史学

4. JASAシェムリアップ・オフィス
メイ・コサール:ナショナル・プロジェクト・コーディネーター(Under UNESCO)
チョレック・サヴィー:ナショナル・プロジェクト・コーディネーターアシスタント
マッカーシー・ロバート:JASA オフィスボランティアスタッフ

5. プロジェクト管理・広報(早稲田大学アンコールプロジェクト研究室)
酒井智幸:元早稲田大学理工学術院研究員、建築史学
黒岩千尋:早稲田大学理工学術院研究員、建築史学

沿革
PHASE 1(Nov. 1994 - Sep. 1999)

■バイヨン北経蔵
 部分解体と再構築、基壇部版築土層のオリジナリティーを尊重した上での改良工法の工夫

バイヨン寺院の北経蔵は、アンコール遺跡の中でも危機に瀕した状態の一つで、壁体・屋根は、不同沈下の影響で全体的に崩壊変形し、解体・再構築が必要なことは明らかでした。一方、基壇は東西両端 著しく不同沈下・変形しているものの、中央部では比較的均等で微妙な沈下のみだったため、中央部は現状を残し、上部と両端部のみを解体する方法を採用しました。また、基壇内部の版築土層には、オリジナル部と同等の強度と透水性を確認出来た「たたき」を応用した方法を採用し、砂岩やラテライトに、従来通り構造材としての機能を持たせつつ外観の形成を実現しました。原構法を最大限尊重し、かつ部分解体修復法のもつ構造的弱点を補う手法を修復に適用することがJSAの命題とし、1999年9月に北経蔵の修復工事が完了しました。

PHASE 2(Sep. 1999 - Apr. 2005)

■アンコール・ワット北経蔵
 既往修理の再修理・散乱砂岩材の修復と原位置復帰

アンコール・ワット全域は、既にモルタルやコンクリートを使用した補修を受けていますが、JSAは伝統的構法と散乱状態で放置されていたオリジナルな部材を可能な限り修復し、原位置復帰の上で保存するという方針に基づき、必要な新材砂岩を併用しつつ、本来の遺構の回復を目指しました。

■プラサート・スープラ
 塔傾斜の主要因であった地盤基礎までを含めた全解体再構築技法による修復方法とラテライトブロック部材の修復と再利用の方法を開発した。

崩壊が顕著であったプラサート・スープラN1塔の修復は、塔全体の崩壊・劣化原因の調査・分析から開始し、アンコールでは初となる基壇基礎を含めた全解体・再構築を行いました。また、損傷したラテライトブロックは、原位置を保存した上での各種試験等を通じて、十分な強度と耐久性を付加する対処法をマニュアルとして確立してきました。

■ バイヨン寺院全体の包括的保存修復マスタープランの策定

PHASE 3(Dec. 2005 - Aug. 2011)

■バイヨン南経蔵
 蓄積された修復技術の再評価と自主的運動

バイヨン南経蔵の修復工事では、解体・基壇内部調査・破損石材の修理・解体部材の仮組等の工程・新材の加工・再構築工事とこれまで蓄積されてきたJSAの技術をJASAの体制下においてカンボジア人専門家と現場作業員の自主的な判断において、再評価と運用をすることが可能になりました。

PHASE 4(Nov.2011 - Jun.2018)

■バイヨン東面景観整備
■中央塔の恒久的安定化
■浅浮き彫りの保存修復方法の策定
■これらの修復活動と次世代の人材育成

約20年にわたる修復工事の実績を踏まえ、修復等と併せ、総合的な景観整備を実施しています。これと並行して、これまでJSA/JASAが続けてきた「バイヨン中央塔の恒久的保存」「内回廊浅浮き彫りの保存」の方法を確立するための各種検討を重ねるとともに、バイヨン本尊仏プロジェクトの一環である本尊レプリカ作成作業を行いました。また第4フェーズにおける重要な課題の一つである、次世代のカンボジア人育成―カンボジア人による持続可能な保存修復活動―と各国の文化財保存活用の若手研究者の育成・交流に関しても、取り組んできました。

PHASE 5 (Nov.2018 - Mar.2022)

■バイヨン東面景観整備
■中央塔の恒久的安定化
■浮き彫りの保存修復方法の策定
■これらの修復活動と次世代の人材育成

PHASE 4からの継続事業として、バイヨン外回廊北東部の景観整備を行っています。また、「バイヨン中央塔の恒久的安定化」と「内回廊浅浮き彫りの保存」の修復工事へと進むために、施工実験等を進めつつ、アプサラ機構と協力してバイヨン全域の整備工事を行なっています。

PHASE 4およびPHASE 5に行っているバイヨン本尊プロジェクトおよび外回廊と東参道におけるナーガ欄干とライオン石彫像の修復工事の概要に関しては、技術協力の項をご参照ください。