JSA / JASA

Japanese Government Team for Safeguarding Angkor
JAPAN-APSARA Safeguarding Angkor

日本国政府アンコール遺跡救済チーム

ごあいさつ

団長からのメッセージ

JSA/JASAの目的ははっきりしており、その意義も重要であることはすぐ理解されますが、では、そのためにどのような保存修復を行えばよいのか、となると話はまた別になります。
カンボジアの人たちが将来自らの手で修復するために、私たちに出来る協力とは何か。それがどのように日カ友好、国際協調、そしてカンボジア社会の復興に結びつくのか。これらの問題を私たちなりに模索してきた結果、以下のように考えています。
アンコール遺跡の特徴の一つとして、どれもが重々しく、存在感が強いので独特な佇まいや雰囲気があり、見る人の内面に訴えかける力がある一方で、遺跡周辺の森や、大地や空に、気持ちが広がっていく開放感があります。この両義性は、彫刻と建物の関係や、造営技術の上にも表れています。これらの性格は、クメール先祖たちが、彼らの土地の気候風土と長い時間をかけて慣れ親しんできたものと、主にインドという当時の世界や先進から伝えられた新しい文明を調和させ、併存させるための工夫から生まれたものに違いありません。地域と技術、そして個の内面に深く根ざすこと、そして、世界に広く眼を注ぐことの大切さを、アンコールは静かに、且つ確固とした力を持って語りかけてきます。カンボジアにも、日本の私たちにも、そして世界にも、今は未だそれが欠落しているために、アンコール遺跡を保存する意味があると思います。
そしてカンボジアから世界に向けて何を発信するのかを問い始めた時、カンボジア人自らの自立と復興が緒につくばかりでなく、私たち日本人にとっても自らの課題として、世界に向き合うことを意味するのです。
私たちがカンボジアの人たちに知識や技術を伝え、現場で共に汗を流し、等身大のつき合いの中から見い出すことができるのは、単なる一方的な協力関係では決してありません。それは、過去の復興という共感に裏打ちされて、共に未来を信じようとする意志なのです。

中川 武(なかがわ たけし)


JSA 団長/JASA 共同代表/早稲田大学名誉教授
建築史家・早稲田大学教授・工学博士

1944年富山県生まれ

1967年/早稲田大学理工学部建築学科卒業、1972年同大学院博士課程修了
1971年より早稲田大学理工学部助手、専任講師、助教授を経て、1984年同大学教授、2015年より同大学名誉教授

1998年/カンボジア王国シアヌーク国王より「サハメトレイ王国勲章」受章
2000年/ベトナム・フエ省および文化芸術省より「民族文化遺産保存事業功労勲章」を受章
2002年/カンボジアでの「アンコール・トム中央寺院バイヨンの北経蔵修復等を通じての国際貢献」により日本建築学会賞を受賞
2005年/カンボジア王国シハモニ国王より「モンニサラポン勲章」受章
2006年3月/カンボジア王国より「サハメトレイ王国勲章」受章
2006年11月/早稲田大学より「大隈記念学術褒章(記念賞)」受賞
2007年11月/ベトナム政府より「ベトナム政府友好勲章」受章
2011年12月/カンボジア王国より「サハメトレイ王国勲章アンマルン級」受章
2012年/「平成24年度科学技術分野文部科学大臣表彰」受賞
2018年/「平成30年度外務大臣表彰」受賞
2019年5月/春の叙勲で「瑞宝中綬章」受章
2019年6月/カンボジア王国より「サハメトレイ王国勲章マハ・シルヴッダ級」受章

<主な活動>
1972年ー現在/日本建築、木割りの研究
1982ー91年/スリランカで古代仏教建築の実測調査と設計手法の研究
1989ー92年/東北タイ、クメール建築の実測調査
1977年ー現在/早稲田大学エジプト学研究所、吉村作治教授と共にエジプトのルクソール、アブ・シール、ギザ、ダハシュール等での研究調査活動
1991年ー現在/ベトナム、フエにおける午門、カンチャンパレス等の保存修復活動
1992年ー現在/日本国政府の依頼により、アンコール遺跡予備調査を開始

1994年ー現在/日本国政府アンコール遺跡救済チーム団長
1995年ー現在/ヴィエトナム・フエ・ユネスコ会議国際専門委員
2000年ー現在/文化審議会文化財分科会第二専門調査会専門委員
2001ー2003年/日本建築史学会会長
2014年7月ー現在/博物館明治村館長
2015年1月ー現在/NPO法人GREEN WIND ASIA(GWA)代表理事

<著書>
『日本建築みどころ辞典』(1990年・東京堂出版)
『数寄屋の森』(1995年・丸善)
『建築様式の歴史と表現』(1995年・彰国社)
『保存工学の課題と方向~アジアへの文化遺産保存協力~』(2001年・早稲田大学建築史研究室)
『世界宗教建築辞典』(2001年・東京堂出版)
『日本の家』(2002年・TOTO出版)
『日本の古建築 美・技術・思想』(2015年、青土)など