about
1980年代末よりカンボジア和平に主導的な役割を果たした日本政府は、その後の社会復興のために継続的な国際協力が不可欠と考え、その象徴的事業として、日仏の協力のもとに、国際協調の枠組みによるアンコール遺跡救済に乗り出しました。その目的の主要な部分を遂行するのがJSA(Japanese government team for Safeguarding Angkor/日本国政府アンコール遺跡救済チーム)です。
またJSAは、アンコール遺跡の保全修復作業を通じた現地技術者への技術移転・人材育成を努めており、将来的にはカンボジア国民自らの手による遺跡保存活動が実現されることを目指して支援を行っています。
そうした活動の一つとして、よりカンボジアサイドの自立を高めるため、カンボジア政府組織APSARA (Authority for the Protection of the Site and the Management of Angkor Region)とJSAの協力チームである、JASAを結成しました。
ここでは多様なアンコール遺跡群、JSA/JASAの組織概要と沿革、団長である中川武からのメッセージをご紹介します。
pickup
weekly
report
on
facebook
update
技術協力のページをアップロードしました
activities
JSA/JASAは遺跡群の修復事業のみならず、まだまだ豊富とはいえないアンコール遺跡群に関する基礎資料と基礎研究の充実化、日本-カンボジア間における技術移転と国際協力のための人材養成事業を行っています。また、これらに関連する事業協力や、これまで活動してきた技術・資料の蓄積から、様々な事業にに対して技術協力を行っています。
ここではそれぞれ実施している事業の概要をご紹介します。
pickup topic
文化遺産保存と真正性の議論
文化遺産の保存に関する議論では、西洋の石造を主とする組積造の建築物を主対象としたヴェニス憲章において建造物の真正性を保証する条件を要求し、1994年の奈良会議では「オーセンティシティに関する奈良ドキュメント」として、真正性の多様性が拡張されました。奈良ドキュメントにおける真正性は、真正性を保証する要素が有形無形にかかわらず多様な側面において評価され、かつ文化遺産はそれが帰属する文化の文脈の中で考慮・評価されることが求められ、世界的にも文化遺産に対する評価基準に大きく影響を与えたといえます。
アンコール遺跡の基壇・基礎構造
バイヨン寺院中央塔の
ボーリング調査
アンコール遺跡における真正性は、周辺諸国の文化的な影響や宗教・社会体制、土着的な文化などの多様な要素を内包しながら、独自の文脈の中で生成されました。JSA/JASAでは、アンコール遺跡の調査研究と保存修復活動を開始した時から、遺跡の劣化崩壊を招く大きな要因の一つに、自然環境と地域の伝統文化が遺跡を支えてきたと考えてきました。
私たちは、アンコール地域の10箇所を対象として行ったボーリング調査によってアンコール遺跡が立地する場所の地下構造を、そして基壇の内部構造に関する調査では、版築土層の性質を把握しました。アンコール遺跡の基壇は、砂岩・ラテライト等の石材による組積のわずかな変位によって目地開きが発生し、細粒土と草木の種を風が運び、その根が石積の目地をこじ開けることで大量の雨水が基壇内部に侵入して、版築層の土が壁面から外に流れ出て、不同沈下が起こり、バランスを崩した上部構造の大規模な崩壊・倒壊までをも招きます。そのため、小さな草の間に清掃を心がけることで、少しの雨水の浸入であれば半年の乾季の間に蒸散するか、地下~20m内外の水脈へ静かに浸透していくことが期待されたのではないかと予想されます。粒子が細かく、乾燥時には驚くほど強度を発揮するアンコール地域産出の砂、そして雨季乾季を繰り返す気候といった自然環境の中で育まれ、それを最大限に活用した古代のテクノロジーの最たるものこそ、アンコール遺跡の基壇・基礎構造だったのではないでしょうか。
アンコール遺跡の真正性とは
修復作業の中で
版築土を固めている様子
近年の真正性の概念の拡張と文化遺産の保護は密接にかかわっています。文化遺産の真正性を一概に定義することは困難ですが、アンコール遺跡の生命ともいえる版築土層を中心とした基壇・基礎構造は、アンコール地域の自然環境の中から巧みに生み出されたものであり、これらこそアンコール遺跡の真正性の中核の一つと見なすことができるでしょう。私たちは、保存修復事業を行うにあたって、その真正性の内容を探求し、現在の環境で成立させるための技術的工夫を試行しています。アンコール遺跡の真正性とは、一言でいえば独自な自然と伝統と調和した地盤・地下・基礎構造を保存した文化遺産の姿といえます。コンクリート等の安易な近代技術に頼るのではなく、このような真正性とその保存修復のための技術の探究の過程をカンボジアの若い人材と共に歩むことこそ、真の意味での、カンボジアのための人材育成と国際文化協力となるだろうと考えています。
Bayon Master Plan and Bayon Charter
バイヨンはアンコール王朝の最も繁栄した歴史と伝統文化の証であること、アンコール-シェムリアップ地域の住民のみならずカンボジア国民全体の生きた信仰の場であること、そして現在のアンコール観光の中心であること等によって、カンボジアにとって最も重要な遺跡の一つとなっています。JSA結成当時のバイヨンはアンコール遺跡群の中でも最も劣化、崩壊の危機に瀕した遺跡でもあり、その上、現場での即応的な建築技術が適用された建物が高密度に集積された遺跡であること等によって、その修復が技術的に最も困難な状況でした。
このような背景の中で、JSA/JASAはAPSARA、UNESCO、さらに各国の修復チームと協議を重ね、「バイヨン寺院全域の保存修復のためのマスタープラン」の策定、「バイヨン憲章」の作成を行い、この成果を基にバイヨンの修復事業を進めています。
ここでは、「バイヨン寺院全域の保存修復のためのマスタープラン」および「バイヨン憲章」の概要をが紹介します。
reports / publications
JSAは1994年に結成し、現在まで継続的に修復事業および調査研究を行ってきました。19世紀から続くアンコール遺跡研究の主要な課題の一つには、基礎資料の充実化が挙げられます。私たちは今まで行ってきた修復事業と研究成果の継続的な出版等を行うことで、基礎資料の集積化を行っています。
ここでは現在までに出版してきた事業報告書、バイヨン寺院を中心とした修復方法策定の経緯、また現在も稼働中の修復現場の状況や専門家の修復理念などを記した技術報告などをご紹介します。